民事訴訟法(みんじそしょうほう)
- 日本の法律のひとつ。本項で詳述。
-
民事訴訟に関する手続を定めた各国・地域政府の法令や裁判所の規則を総称していう。「民事訴訟法」と名の付く法令を有する国もあるし(日本、イギリスなど)、「民事訴訟法」以外の名の付く法令を有する国もある。後者の例として、アメリカ合衆国では連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)という裁判所規則が連邦裁判所における民事訴訟に関する手続を定めた一般法であり、各州の裁判所における民事訴訟に関する手続を定めた法令の手本ともなっている。欧州連合(EU)におけるブラッセル条約(das Gerichtsstands- und Vollstreckungsübereinkommen der Europäischen Gemeinschaft (EuGVÜ) およびルガノ条約(Lugano-Übereinkommen)は国際裁判籍や執行に関する条約である。
<
民事訴訟法(みんじそしょうほう)とは、民事訴訟に関する手続の原則を定めた日本の
法律(
平成8年法律第109号)である(同法1条)。これを
形式的意義における民事訴訟法、または民事訴訟法典ともいう。一方、民事訴訟に関する手続を定めた法令や確立した
判例その他の規範全体を総称して
実質的意義における民事訴訟法という。
民事訴訟法(明治23年法)について
日本で初めて本格的な民事訴訟法が制定されたのは、
1890年(明治23年)のことである(旧々民事訴訟法、明治23年法律第29号)。この法律は、
1926年(大正15年)に大きな改正(大正15年法律第61号)を経ており、大正の改正後ほぼ70年の間、部分的な改正のみが行われ、用いられ続けた(旧民事訴訟法)。
その後、民事訴訟法(平成8年法律第109号)が施行されたことに伴い、旧民事訴訟法は「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」と題名を変えて残っていたが、
仲裁法(平成15年法律第138号)が制定されたことに伴い、公示催告手続のみを規定する「公示催告手続ニ関スル法律」という名称の法律になった。さらに、公示催告手続につき改良した手続を
非訟事件手続法(明治31年法律14号)に加える旨の改正がされるに及んで、最終的に明治23年法律29号は廃止されることとなった。
制定当初から大正の大改正までの旧民事訴訟法を旧々民事訴訟法と呼ぶことがある。旧々民事訴訟法の法制をめぐる研究は、ほとんどなくなってきている。たとえば、現行民事訴訟法第5条1号の
財産権をめぐる特別裁判籍は旧民事訴訟法5条の義務履行地の特別裁判籍をそのまま引き継いだものであるが、旧々民事訴訟法第18条の契約の成立にかかる特別裁判籍を拡張し、契約の成立が立証できなくとも適用されるようになった経緯の論文は少ない。また、現行民事訴訟法第249条2項の弁論の更新は旧民事訴訟法で創設されたものであるが、旧々民事訴訟法の母法であるドイツでは裁判官の転勤がないため、不都合を生じた解決のためだったということがあげられる。
民事訴訟手続で採られる原則
民事訴訟においては、訴訟係属中の
審理の進行については
裁判所が主導権を有する
職権進行主義が採用されているが、訴訟の内容面については主導権を当事者に与える
当事者主義が採用されている。そして、当事者主義の内容として
処分権主義、
弁論主義といった原則が採用されている。
処分権主義
訴訟手続の開始、審判範囲の特定、訴訟手続の終了については、当事者の自律的な判断に委ねられるという原則のことである。民事訴訟の対象となる私人間の権利関係については
私的自治の原則が認められるため、この原則を民事訴訟手続にも反映したものといえる。
- 訴訟手続の開始
- 私人間に権利関係をめぐる紛争があっても、裁判所としては、当事者から紛争を解決したい旨の申立て(訴え)がなければ訴訟手続を開始することはしない。一見当たり前のようであるが、訴訟以外の裁判所の手続中には、申立てがなくても職権で手続を開始するものもある(例えば、民事再生手続で再生計画案が認可されなかった場合の職権による破産手続開始決定など)。
- 審理範囲の特定
- 裁判所は、当事者(具体的には原告)によって特定された権利関係についてのみ判断をする。例えば、500万円を支払えという趣旨の訴訟が係属したとして、裁判所は審理の結果600万円請求する権利が認められるという心証を得たとしても、超過する100万円分については訴えの対象になっていないため、500万円を支払えという内容の裁判しかできない。
- 訴訟手続の終了
- いったん訴訟が係属した場合といえども、当事者は開始された訴訟手続をその意思により終了させることができる。具体的には、原告が訴えを取り下げた場合(ただし、被告が本案について答弁をした場合は被告の同意が必要)、訴訟上の和解が成立した場合、請求の放棄・認諾があった場合には、判決をせずに訴訟手続が終了する。
弁論主義
職権探知主義の対義語。通説によると、資料(事実と証拠)の収集・提出を当事者の権限および責任とする建前のこととされ、具体的には以下の三つの内容に分けて考えられる。なお、弁論主義の適用される事実は
主要事実に限られ、
間接事実や
補助事実には適用されないというのが通説である点に注意を有する。
民事訴訟において弁論主義が採用される根拠としては、私的自治の訴訟上の反映とする説(本質説ないし私的自治説)が通説である。これを前提に、近年は、当事者が訴訟資料を限定できる権能とそれによる責任こそが弁論主義の本質であり、当事者が訴訟資料を提出できる権能(攻撃防御方法提出権、弁論権)とそれによる責任は職権探知主義にも妥当するものであって両者は区別すべきだとする議論が有力化しつつある。
- 第1テーゼ(当事者が主張しない事実の扱い)
- その事実を当事者が主張しなければ、判断の基礎とすることはできない。例えば、貸金返還請求訴訟において、被告が既に弁済していることが証拠上認められる場合であっても、当事者が弁済の事実を主張していない限り(例えば、そもそも消費貸借契約自体が不成立という争い方しかしていない場合など)、弁済の事実があったことを前提に判断をすることはできない。
- 第2テーゼ(当事者間に争いのない事実の扱い)
- その事実について、当事者間に争いがない事実はそのまま判断の基礎としなければならない。例えば、貸金返還請求訴訟において、被告が既に弁済していることが証拠上認められる場合であっても、被告自身が未だ弁済していないという自己に不利益な事実を認めている場合は、弁済をしていないことを前提に判断しなければならない。
- しかしこの場合も、通説ではそのまま判断の基礎とされる当事者間に争いがない事実とは主要事実であるとされているため、間接事実にかかわる証拠や自白において、たとえ当事者間に争いがなかったとしても、必ずしもそれがそのまま判断の基礎とされるわけではない。
- 第3テーゼ(職権証拠調べの禁止)
-
事実認定の基礎となる証拠は、当事者が申し出たものに限定される。例えば、貸金返還請求訴訟において、被告が既に弁済したか否か証拠上はっきりしない場合で、裁判所としては別の証拠があれば事実認定できると考えた場合でも、当事者が申出をしない限りその別の証拠を調べることはできない。
- なお、大正旧民事訴訟法第261条では職権による証拠調べがあったが、第2次大戦後に刑事訴訟法全面改正時に削除された経緯がある。
構成
- 第1編 総則
- 第1章 通則
- 第2章 裁判所
- 第3章 当事者
- 第4章 訴訟費用
- 第5章 訴訟手続
- 第6章 訴えの提起前における証拠収集の処分等
- 第7章 電子情報処理組織による申立て等
- 第2編 第一審の訴訟手続
- 第1章 訴え
- 第2章 計画審理
- 第3章 口頭弁論及びその準備
- 第4章 証拠
- 第5章 判決
- 第6章 裁判によらない訴訟の完結
- 第7章 大規模訴訟に関する特則
- 第8章 簡易裁判所の訴訟手続に関する特則
- 第3編 上訴
- 第4編 再審
- 第5編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則
- 第6編 少額訴訟に関する特則
- 第7編 督促手続
- 第1章 総則
- 第2章 電子情報処理組織による督促手続の特則
- 第8編 執行停止
関連項目
外部リンク
*
----------------------------------------------
出典:「フリー百科辞典ウィキペディア」(2009-01-01)
ご利用上の注意