放射能(ほうしゃのう、Radioactivity)とは、
物理学的な定義では、
放射線を出す能力である。
一般的には、
放射能をもつ物質(
放射性物質)の意味でも使われることがある。
放射能と
放射線とは混同されがちであるが、その定義は明確に異なるため注意が必要である。
放射能の強さは、1秒間に崩壊する
原子核の数で表され、
ベクレル(記号Bq)という単位で表す。原子核が崩壊する時に放射線を放射する。
かつては、1グラムの
ラジウムが持つ放射能を単位とし、これを1
キュリー(記号Ci)としていた。1グラムのラジウムは毎秒 3.7×10
10個のα線を放射しているので、1キュリーは 3.7×10
10ベクレルということになる。
放射能標識
放射線が発生している場所、例えば
病院や
診療所のレントゲン撮影室などには、右記のような放射能標識が表示される。
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☢
放射能のしくみ
放射線と放射性同位体
放射能を持つ物質を
放射性物質と呼ぶ。
放射能は物質に含まれる
放射性同位体の
原子核崩壊に伴って放射線が放出されることに起因している。原子核崩壊は単に崩壊や壊変と呼ばれる。
崩壊に際して
放射線が飛び出すが、その粒子は崩壊モードに応じた数メガ電子ボルトの運動エネルギーを持っている。これは
崩壊エネルギーと呼ばれ、崩壊後の原子核や放射された粒子の合計質量が崩壊前の原子核の質量より減ること、つまり
質量欠損に起因するものである。
崩壊エネルギーは最終的に熱エネルギーに変わる。このため、放射性物質はしばしば高温を発している。この熱エネルギーを回収して電気エネルギーに転換するしくみが
原子力電池である。崩壊モードと崩壊エネルギーを図で示したものが
原子核崩壊図である。
半減期
放射性同位体は壊変に伴ってそれ自身が減り、その同位体の放射能は指数関数的な割合で減衰してゆく。放射能が半分に減る時間は核種ごとに常に一定であり、これを
半減期という。
半減期が短い放射性同位体は早く他の核種に姿を変えるが、
比放射能は高くなる。半減期は物質によって異なり、1秒以下から数百億年以上のものまでさまざまである。
自然界に存在する放射性物質は半減期の長いものが多く、地球誕生以来46億年の時を経て生き残っているためである。
崩壊生成物
ある放射性同位体が放射線を放出した後にできる核種を
崩壊生成物という。
しばしば崩壊生成物もまた放射性同位体であるので、さらに崩壊を起こして別の核種に壊変していく。
こうしてできる一連の連鎖を
崩壊系列という。
放射平衡
ある放射性同位体(親核種)が崩壊してできた物質(娘核種)も放射性である場合を考えると、これら親核種と娘核種のそれぞれの半減期は一定であるため、ある時間以降は、親核種の崩壊で生じる放射線と子孫核種で生じる放射線の比率がほとんど変化せずに推移する状態が生じる。この状態を放射平衡という。放射線量そのものは時間とともに減衰してゆく。
放射性物質の利用
放射線が物を透過する性質を利用するため、放射性物質がさまざまな分野で利用されている。
例えば、ある種の火災感知器では空気の密度を測るために放射性物質である
アメリシウム241が使われている。また、放射線が細胞分裂を止める性質があるので、医療器具の滅菌、ジャガイモの発芽防止などに放射性物質である
コバルト60が利用されている。
バセドウ病など特定の病気の治療薬として放射性物質を投与することがある。
この他、蛍光塗料の添加物、静電気除去、製鉄、ランプの覆い、蛍光灯の点灯管などに放射性物質が利用されている。
放射線の測定
放射線は目には見えず熱くもないので、検知するために特別な測定器具を用いるのであるが、測定したい線種と目的に応じて適切な器具を選ばなければならない。
個人の被曝線量を知るためにはフィルムバッジやガラス線量計が安価・軽量でよい。臨界ベルトを着用する場合もある。
表面汚染を検出するには
ガイガー=ミュラー検出器など。空間線量を測定するには、
シンチレーション検出器などが用いられる。
分析には半導体検出器が多く用いられる。
放射線防護
人体が放射線にさらされることを
被曝という。
あまりに多くの放射線に被曝すると、健康に悪影響がある。このような悪影響を総称して
放射線障害という。
放射線障害を防止するため、法令により、人体が被爆する放射線の量(
線量)に限度が設けられており、放射性物質を取り扱う場合はこの値を超えないようにする必要がある。また、放射性物質を取扱う施設の仕様、放射性物質の購入・保管・廃棄の管理、汚染の管理、管理被服や
放射線防護服、保護具の着用も、法令や施設の内規で定められている。
単位
現在の放射能の単位は
SI単位系で
ベクレル(記号Bq)を用いている。それ以前は、
キュリー(記号Ci)であり、これはまた現在でも補助単位としても使用されている。放射能研究の当初は標準単位がなく
アーネスト・ラザフォードも独自の単位を使用していたが、標準となる単位の必要性を感じていたラザフォード自身が基準委員会の委員長となり、1910年の第一回国際放射線学会にて 1グラムの
ラジウムが持つ放射能を単位とした1キュリー(Ci)が定義された。その後、1974年にSI単位として国際度量衡総会でベクレルを採択し1975年から国際標準として用いられている。日本においては法改正がなされた1989年からベクレルが公式使用されている。
ベクレル単位の目安として、人体にはおよそ6,000-7,000Bqの放射能がある。これは人体に含まれるカリウム40という放射性物質によるものである。この程度の放射能であれば人体に及ぼす影響はほとんどない。一般的に実験や研究で用いられる放射能はMBq(106 Bq)である。さらに放射能がGBq(109 Bq)を超えると人体に影響を及ぼす危険性があるとする見方がある。
放射能が晩発効果によって人体に悪影響を及ぼす限界値は、確率に影響され、人体実験が不可能な事、長期間かかる事、対象群が設定しづらい事、症状が非特異的である事、遺伝的影響では更に時間がかかる事、等により定まっていない。
急性効果としては約4Gyの被爆で半数の人が死亡するとされている。
チェルノブイリ原発事故を契機に、輸入食品中の放射能濃度の暫定限度が370 Bq/kg(セシウム-134+セシウム-137の合計値)に設定され、これを超える食品は日本に輸入できない。
「放射能」の定義について
2つの定義がある。そのひとつは、本来的な定義である
放射線を出す能力のみが正しい使い方であり、
放射能を持つ物質(放射性物質)の意味での使用が誤用であるとする定義である。もうひとつは、慣例として
放射性物質を放射能と呼ぶことを認める定義である。
この2つの定義が争うようになったのは、特に「放射能汚染」や「放射能漏れ」という表現を巡ってのことである。
本来の定義を採る立場からは、以下のように説明されている。
- 放射能は、何らかの具体的物質を指す言葉ではない。喩えて言うなら、電球を放射性物質、電球から出る光を放射線としたとき、放射能に該当するのは「電球が光を発する能力」のことである。
- しかし、報道や日常会話では、「放射能を持つ物質(放射性物質)」と「放射能」との概念上の区別があいまいでひと括りにされ誤用されている。すなわち、原子力関連の事故に於いて「放射能漏れ」「放射能に汚染」などと報道されることがあるが、それは日本語的にも科学的にも誤った使用例であり、正しくは「放射能を持つ物質(放射性物質)の流出」とか「放射線の誤照射」といわれるべきものである。
- なお、高エネルギーの放射線が原子に当たった場合、受け取ったエネルギーをエックス線・γ線として再放出したり、その原子が放射性物質に転換する(このような現象は放射化と呼ばれる)が、用法として「放射能が漏れた」とも言えなくはない。
慣用的な表現を認める立場からは、以下のように説明されている。
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放射性物質を放射能と表現するのは慣用的用例として定着しており、同義として表現しても特に問題はない。
注釈・出典
関連