債権(さいけん)とは、ある者(債権者)が特定の相手方(債務者)に対して一定の行為(給付)をするよう要求できる
権利をいう。債務者の側から見た場合は
債務(さいむ)と表記され、一定の行為を義務づけられる。
冒頭に述べたような債権の概念そのものは
ローマ法に由来する。日本においては明治期においてヨーロッパ法(特に
ドイツ法、
フランス法)を継受した際にローマ法由来の債権概念が導入され、現在の解釈学においてもその影響は強い。なお、導入当初においては債権は「人権」と表記されていた。
現在の日本の
民法においては、民法第3編
債権において、その発生原因として、
契約、
事務管理、
不当利得及び
不法行為の4つを規定している。
当事者間の合意により発生する債権を
約定債権といい、契約による債権がこれに属する。一方、法律の規定によって生じる債権を
法定債権といい、事務管理、不当利得、不法行為による債権がこれに属する。
債権の特質
債権は
物権と同じ
財産権ではあるが、以下の点で物権とは異なる。
- 物権は物を直接的に支配すれば権利を実現できる(物権の直接性・物権の対世性)が、債権は相手方である債権者の行為がなければ権利を実現できない(債権の対人性)。
- 物権は同一物上に同種の権利は併存しえないが(物権の排他性)、債権は同一物上に同種の権利が併存しうる。
- 物権は債権に優先し、債権は物権に劣後する。
- ただし、不動産賃借権、借地権、借家権のように強い効力が認められるようになった債権もある。
債権の目的
債権の目的を給付という。債権の目的については第3編第1章総則第1節で規定されており、具体的には以下のようなものがある。
-
特定物債権(400条)
-
種類債権(401条)
-
金銭債権(きんせんさいけん)(402条以下)
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利息債権(りそくさいけん)(404条以下)
-
選択債権(せんたくさいけん)(406条以下)
特定物債権
特定物債権(とくていぶつさいけん)とは、物の個性を重視した特定物の給付を内容とする債権をいう。例えば土地の引渡し債務や中古品の引渡し債務などである。
- 特定物債権の主な特徴
- 目的物の保管につき債務者には善管注意義務が課される(400条)。
- 反面その履行は現状でその物を引き渡せばよいとされる(483条)。
- 双務契約における危険負担においても不特定物債権との差異を生じる(534条1項)。
- 瑕疵担保責任(570条・566条)の解釈につき、売買の目的物が特定物であることを要すると解する法定責任説とこれに限られないとする債務不履行説との対立にも関連する。
- その他、弁済の場所(484条)。
種類債権
種類債権(しゅるいさいけん)とは、目的物(不特定物)を種類と数量だけで指示した債権をいう。
- 種類債権の特徴
- 履行までには特定(民法第401条2項)を生じて目的物が具体的に定まり、以降は原則として特定物債権と同じ扱いとなる。
- 市場に種類物が存在する限り履行不能を生じないし、特定を生じない限りは調達義務を負う。
- その他、双務契約における危険負担(534条2項、536条)、弁済の場所(484条)。
制限種類債権
制限種類債権(せいげんしゅるいさいけん)とは、目的物の範囲に限定のある種類債権をいう。例えば特定タンク内のタール5000トンのうち2000トンの引渡債務などである。この場合に特定タンク内のタールの全てが滅失すれば
履行不能となる点で通常の種類債権と異なる。その他は種類債権に準じる。
金銭債権
金銭債権(きんせんさいけん)とは、一定額の金銭の支払を目的とする債権をいう。代金債権、貸金債権等、実際の取引における大部分の債権(
金額債権)である。なお、特殊な金銭債権として
金種債権と呼ばれるものがあり、これには特定の種類の金銭の一定量の給付を目的とする相対的金種債権と、骨董的あるいは記念的な貨幣の給付を目的とする絶対的金種債権があり、いずれも通常の金銭債権(金額債権)とは法的な扱いが異なる(
金銭債権の項目参照)。
- 通常の金銭債権(金額債権)の特徴
- 金銭価値が下がっても補填する必要がない。
- 履行不能にはならない。
- 各種の通貨で弁済をすることができる(402条)。
- 損害賠償の額(遅延損害金)は、年5分の法定利率によって定める(419条1項、404条)。
- 損害賠償(遅延損害金)については、債権者は、損害の証明をすることを要しない(419条2項)。
- 損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない(419条3項)。
利息債権
選択債権
選択債権(せんたくさいけん)とは、数個の給付の中から選択によって定まる債権をいい、その選択権は、債務者に属する(406条)。
債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する(408条)。
- 無権代理人の責任:履行又は損害賠償(117条)
債権の効力
債権の効力
債権には一般に以下のような効力があるとされる。
- 給付保持力:債権者の履行による給付を保持しても不当利得とはならない効力。債権の必要最小限の効力とされる。
- 訴求力:訴訟手続で債権を実体法上の権利として確認できる効力
- 執行力:確定判決を債務名義に執行しうる効力
このほか以下のような概念も用いられる。
債権者代位権と詐害行為取消権
債務者の責任財産を保全するため、民法は債権者代位権と詐害行為取消権を認めた。第3編第1章総則第2節で規定された制度である。
第三者による債権侵害
多数当事者の債権及び債務
第3編第1章総則第3節で規定される。
- 分割債権及び分割債務(427条)
- :多数当事者の債権関係における原則的形態。
- 分割債権は、1つの可分な給付を目的とする債権を複数の債権者が有する場合をいう。
- :例えば、金銭債権が共同相続された場合(分割債権)や共同売却代金(分割債権)などが考えられる。
- 分割債務は、1つの可分な給付を目的とする債務を複数の債務者が負う場合をいう。
- :分割債務とされると債権の効力が弱まることから、学説上分割債務の成立を限定して解する見解がある。例えば金銭債務の共同相続の場合や共同購入者の負う代金支払債務などにつき争いがある。
分割された債権や債務は相互に独立したものと扱われる。また、債権者や債務者の1人に生じた事由は他の債権者や債務者に影響しない。
なお、連帯債権についての規定は必要性が貧しいとして設けられていない。
債権の譲渡
歴史的には、債権譲渡(債権者の変更)は債権の本質に反するという考え方も根強く存在していたものの、近代以降においては、債権譲渡自由の原則が強調されるようになった。日本においても、債権の自由譲渡を認めない慣例が存在したとされ、当初は債権譲渡自由の原則に対する抵抗が強かったものの(
民法典論争)、特約により譲渡性を排除できる規定を設けるという形で妥協がなされ、現在に受け継がれている。
現在の日本民法においては、第3編第1章総則第4節で規定される。
債権の消滅
第3編第1章総則第5節で規定される。
- 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同じである。
用語
-
清算株式会社の債権者の債権で、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権、特別清算の手続のために清算株式会社に対して生じた債権及び特別清算の手続に関する清算株式会社に対する費用請求権を除く債権をいう()。
- 債権者が特定している一般の債権。指図債権・無記名債権に対する。
- 例:預金通帳等。
- 債権者が、新権利者を指定することにより譲渡できる債権。
- 例:手形・小切手・倉庫証券・貨物引換証・船荷証券
- 債権者が特定せず、証券の所持人に弁済する債権。動産とみなされる。
- 例:商品券・乗車券・劇場入場券
- 指図債権・無記名債権・記名式所持人払債権のこと。
- 例:記名式持参人払小切手
- 特定物についての物権の設定移転の場合に「債権者が危険を負担すべきである。」という考え。
関連項目
参考文献
- 平井宜雄『債権総論(第2版)』(1994年、弘文堂)